三日目は、かの有名なストリップ劇場「浅草ロック座」を見て浅草の旅を締めたいと思っていた。
朝は小雨模様だが、空は明るく昼頃には上がるらしい。
前日同様、喫茶「ブロンディ」での朝食ついでにロック座前で公演時間を見ると初回は午後13:00からとのこと。
ホテルのチェックアウトは10:00なので3時間近くは余裕があることになる。
浅草の映画館は名画座の他に成人映画館があるので、試しに入ってみることにした。
かつては横浜にも成人映画館が数館あったが、時代の流れからここ数年で閉館が相次ぎ、残るは野毛の光音座のみとなっている。
かくいう私も成人映画館には入ったことがなかったので、何事も体験と思いながら自販機でチケットを買い「浅草シネマ」の狭い階段を下りた。
館内は長い年月を経た老朽感があるが、意外と小綺麗で席にはビニールカバーが掛けられており、既に10人程度の老齢の観客が中程や前方に座っている。
私は映画を見るときはどの映画館でも同じ場所に座るが、今回もスクリーンに向かって最後部の左端に座った。
若干の緊張感を持ちながら、席から映画館の内部を観察していると、後から入ってきた背の高い痩せたおじさんが場内をうろうろしながら席を盛んに移っている。時折後方に立ってタバコを吸って内部を眺めている(基本的には消防法で場内は禁煙である)。
なにやら怪しい行動だが、昔の伊勢佐木町の映画館にもこのような意味不明な人はいたので、とりあえずスリに会わないよう気を引き締めた。まもなく怪しいおじさんは中程の席に座り、映画が始まった。
昔の映画であろうか、バチバチと画像が乱れスクリーンに投影された映像は、フィルムの色が退色しており全体的に青白い。モノラルの音楽と共に喪服を着た未亡人の女がどこかの墓地を歩いている姿を遠くからカメラが追っている。
成人映画は2本立てが基本のため、上映時間は60~80分程度で終わる。やがて他愛のないストーリーの未亡人物が終わり、場内が明るくなった。スクリーン横のトイレに入り、用を済ますと先ほどの怪しいおじさんが鋭い目つきで入口に立っている。何だろうと思いつつ席に戻った。そして映画が始まる直前、怪しいおじさんは再び私の席の反対側後ろ角に立った。
程なく場内が暗くなった。そこにどこからか他の男がやって来て後ろに立った。すると例のおじさんがさっとその男の前に立ち、向かい合って何やらゴソゴソしている。
間違いない!!ここはホモのハッテン場である!!
横浜の光音座も同じ状況であることは話では聞いていたが、聞くのと実際現場を見るのとは大違い。猛烈な動揺で心臓の鼓動が早くなった。すると最後部座席で私の反対側に座っていた人が、きょろきょろと後ろを見ており、私同様に気になっているのかと思いきや、その男も席を立ち後ろへ向かった。
すると、おじさんが獲物を狙うような素早さでその男に向かい、先ほど同様ゴソゴソし始めた。間違いなく私の真後ろで行われている。
この状況下でいかに行動すべきか?頭の中がぐるぐると回転した。
まだ2本目の映画が始まってわずか10分未満。後部座席にいれば何が起こるか分からない。これからの1時間はどうあがいても耐えられないだろう。やはりここは速やかに席を立ち、映画館から脱出すべきだと一気に思考が働いた。
幸いなことに私の席は一番出口に近い。カバンを持ち、意を決し席を立って、普通の歩く早さで出口に向かった。
すると間違いなく私の左側の暗闇の中に例のおじさんが向かってくる気配がする・・・
まさに恐怖!!!
しかし間一髪、私はドアを開けて外に出た。
この時ほど、映画館の外の明るさがまるで天国のように感じられたことはない。
階段をゆっくりあがると、頭上は太陽の明るい光が漏れていた。
階段下のもぎりのおばちゃんが何事もなかったかのように
「ありがと~ございます」と私に声を掛けた。
外に出るとすっかり雨はやんでおり、夏の強烈な光が顔に当たった。