2012年9月16日日曜日

異人たちとの夏 ~浅草への旅4

かき氷を食べ終え「芳野屋」を出て、再び浅草の商店街を歩いた。
乾物屋だの何やらインチキくさい絵画を売る店などを冷やかし「そういえばこの近くの老舗プロマイド屋・マルベル堂へ10年前に彼女と来た」などとたわいのない話をした。
マルベル堂は昔と変わらない姿で残っていた。店を覗き無数の写真をめくり、別段ファンでもないのだが何となく若かりし頃の山口百恵と和服姿でドスを構える緋牡丹お竜こと富司純子のプロマイドを購入した。

夜は黄金町聴き舎の田村マスターが浅草に来るとのことで、ダッチコーヒーの有名な喫茶店アンヂェラスで一服した後、西村さんは浅草演芸場へ向かい、私は18:30に雷門で田村さんと落ちあった。















 
仲見世は、何も知らない観光客を尻目に慌ただしく店じまいの支度をしており、参道の上空はすっかり濃い群青色に変わっていた。


 
本日の夕食の舞台であるすき焼き「今半別館」はこの仲見世通り奥の裏手にある。今半別館は「異人たちとの夏」のラストで風間杜夫と鶴太郎夫婦が夕暮れ時に別れる悲しくも切ないシーンで登場する(ただし実際撮影されたのは入口のみで、内部はセットで撮影された)。
今回の旅の最後の夜に相応しい場所であると思い、前々から田村さんを誘っていたのである。















今半別館は木造建物で中庭があり、それを囲むように個室が並ぶ料亭風の作りで、昔の建物のせいだろうか全体的にゆったりとした空間である。

仲居さんに案内され2階の個室に通されると何となく和風旅館に似た雰囲気である。
お盆の浅草の喧噪とは別世界で、ある意味異次元のような静寂の空間であり、映画のようにここで霊と人間が交流していてもおかしくもない。
痩せた体に和服をぴしっと着込んだ仲居さんは凛とした雰囲気で、無駄話もなくテキパキと鍋を用意し、最初の肉を調理した後、さっと部屋を出て行いった。

いつもの黄金町ではない場所で、田村さんと東京の街の話をしながら、最高級の松坂牛のすき焼きをつつくのも普段と違って面白いものである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 その後、二人の共通の友人である織田さんが銀座に来ているという連絡があり、折角なので店の外で合流した。

飲み屋以外の店はほとんど閉まっており、暗くネットリとした静かな街を三人で歩いた。
とりあえずゆっくり話が出来る場所ということで、私推薦の本日3回目の喫茶ブロンディへ入り、アイスコーヒーやらパフェなどを皆で適当に頼んだ。途中、演芸場での鑑賞を終えた西村さんも加わり、あれこれシリアスな話からたわいのない話をしているとブロンディの居心地の良さもあり、時間は既に11:00をまわっていた。

三人を浅草駅まで送った後、宿泊する私はゆっくりと余裕を持ちながら、心地よい夜の街を歩きホテルへ戻った。
 













長い二日目が終わった。

もちろん翌日の午前中にこの旅で最大の事件が待っていることは知る由もない。