雨が上がり後の蒸し暑い空気が、私にまとわりつくと、やがて自分を取り戻した。
予定外に映画館を早く出てしまったので、ここは旨いものでも食べて気を取り直そうと思い、六区の裏側にある浅草でも有数の行列が出来る店「洋食のヨシカミ」に並んだ。
開店と同時に満員になるヨシカミには、洋食を学ぶ若いコックが大勢おり店内は活気に満ちている。看板メニューのハヤシライスを食べその後、喫茶「ブロンディ」でゆっくりとアイスコーヒーを飲んだが、余裕が出来るとまたあの恐怖が襲ってきた。
そうこうしているうちに13時を過ぎたので浅草ロック座へと向かった。
建物の二階に上がると既に7割方席は埋まっている。常連は朝から入口に並び、中央のかぶりつき席を取り、お気に入りの踊り子にお土産や花なんぞを渡すようである。もちろん出遅れ組の私はステージ向かって右端後方に座わった。
間もなく照明が落ち、爆音と共に耳をふるわす音楽が流れ、カクテル光線が飛び交う中、本日出演の踊り子とバックダンサーたち11名が一斉に踊りながら出てきた。
ストリップは横浜の黄金劇場で何回か見ているが、さすがに場末臭さは感じさせず、ドライアイスや可動式のステージなど圧倒的で、なんとも洗練されたエンターテイメントショーである。
まぁ何よりも、平均年齢50以上の黄金劇場と比べ、出演している踊り子やバックダンサーが全員若い。ステージの上でピンク光線に照らされた踊り子の体の曲線美が官能的である。
やがて踊り子7名の1時間40分のショーが終わり、そして同時に今回の旅が終わった。
あの夏に出会った人々・・・寿司屋の老いた親父さんと常連、焼き肉屋のおばあさん、映画館の前で独り言を言って去っていった人、定食屋で一人冷や奴を食べビールを飲んでいた人、懸命に話す落語家、ピンク色に染まった踊り子・・・そして映画館のホモおじさん。
今思い出すと、何やらこの中の誰かがこの世の者でなくとも不思議ではないような気がしている。
来年の夏には、あの地下の映画館は跡形も無くなっているに違いない。
「あの暗闇のおじさんたちは何処に行くのだろう」などと、すっかり秋めいたこの頃、ふと思う時がある。