2012年9月9日日曜日

異人たちとの夏 ~浅草への旅3

二日目

先日の新聞にこの秋に浅草の映画館がすべて閉館するという記事が載っていた。
浅草は日本初の常設映画館が出来た場所で明治初期から興行街として発展したが、ついにその浅草から映画館がすべて無くなる(これは歴史的な事であると個人的に思っている)ので、一応今のうちに見ておこうと思っていた。
現在浅草に残る映画館は、邦画三本立ての浅草名画座、洋画二本立ての浅草中映劇場、成人映画館の浅草新劇場と世界館、浅草シネマの5館である。
前日、映画館前でプログラムを見ると、浅草名画座で、10時開始で高倉健、勝新太郎、梶芽衣子主演の「無宿」、「男はつらいよ 寅次郎の休日」、「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」の三本立てがあるので、適当に飽きるまで見ることにした。














朝食は演芸場の向かいにある喫茶店「ブロンディ」でモーンングセットと決めていた。
「ブロンディ」はたけしの浅草キッドでも登場するが、浅草芸人がよく利用する喫茶店でもある。朝9時頃、おもむろに店の戸をあけて中に入ると意外と奥は広く、テーブルの配置もチェーン喫茶店のような詰め込み感が無い、適度に落ち着ける空間である。
数人の先客もそれぞれ間隔を保ちながら新聞を広げていた。

店内は特別に芸人のサインもあるわけでもなく、昔と変わらないごくごくあたりまえの毎日が繰り返されている空気感があり、それが何故かボーッとするのに居心地がよい。

トーストとゆで卵を食べて、天井からつり下がるテレビのワイドショーの画面を無意識に眺めながら、アイスコーヒーをすする夏の朝はなんとも贅沢な時間である。



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
開演20分前に映画館に向かい、外観を写真に撮っていると、浅草でよく見かける風情のおじさんが私の横に並び、

「この映画館も閉館か~、東京の三本立て映画館はこれで全部無くなっちまうな~、壊してももうここには映画館はできねぇだろうな~」と独り言のように話して去っていった。
 















映画館に入ると館内は意外と広く、既に高齢者中心に20名ほどが席に着いていた。
ほどなく灯りが落ちて「無宿」が始まったが、途中から入ってくる者、缶ビールを“プシュ!”と音を立ててあける者、シネコンでは気になる場面だが、ここではこれもある意味日常である。二本目の「男はつらいよ」が始まる頃には結構人が入って来た。
浅草で寅さんを見るのはなかなかオツなもので、寅さんの古くさくも普遍的な「人としての筋」や「生きることの不器用」さは、この年になるとその意味が身にしみる。
とここで、友人の西村さんが浅草に着いたらしい。2本を見て映画館を後にした。

演芸場の前で落ち合うと、とりあえず昼飯とのことで、再び目の前の「ブロンディ」で冷やしラーメンを食べて浅草の街にくり出した。

特に予定も決めておらず、照りつける日差しも厳しくなってきたので、何かよい場所はないかと思案すると、そういえば花やしきには一度も入ったことがないことに気が付いた。以前、花やしきのローラーコースターは、セットの家すれすれに通る演出が面白いと聞いていたが、場内は夏休みの家族連れで結構な混み具合。約40分並び2分ほどのコースターを体験して外に出た。















花やしきのすぐ隣に「芳野屋」という老夫婦が営むなんとも昭和風情の定食屋があるのだが、丁度“かき氷”の文字が風に揺れていたのでここで休憩。

店内は、10畳ほどの狭い空間で凹凸のあるコンクリート床に、折りたたみ式の定食屋テーブルが置いてある。
既に黒く日焼けした顔、白いTシャツと短パン姿の浅草でよく見かける風情の男が、一人冷や奴をつまみながらビールを飲んでいた。
その隣のテーブルで、二人してかき氷をシャカシャカと崩していると、西日の差す店内はゆっくりと時が過ぎていった。